十勝の風土
十勝平野は、北に大雪山系・西に日高山脈をあおぐ。中央には十勝川が流れ太平洋にそそぐ。
畑をほり おこしていると、石の矢じり、斧の先が出てくる。この土地にも石器時代、縄文時代からの文化があったのだ。詳細はわかっていないが、アイ ヌ、ギリヤーク、イヌイト等、北方系民族が往来していた。十勝は4億年前は海の底だった。山地からはアンモナイト、石炭紀の植物の化石が沢山出てくる。こ の土地もまた、40億年の地球の歴史を刻んでいたのだ。
そして、 ここ万年(マンネン)に日本人が住みついたのは、ちょうど100年前だ。「今まで百年、これから万年」万年地区の標語である。初代の開拓者 が入った頃、見渡す限りのカシワの原生林だったという。村の古老は話す、「数本のカシワの樹を切り倒し、馬の力を借り抜根して、ポッカリと青空の見えた時 は本当にうれしくて涙が出た。」
十勝は日本の中でも特に多様、他民族の混合体だ。開拓者は様々な地方からやって来て、共に力を合わせて生きてきた。それ故に十勝の人々は、風景と同じようにあっけらかんとしていて、大雑把で心が広い。どんな人にも明るく接し、気さくに家に招き入れる。
その人柄は、昔から今まで、変わることなく受け継がれている。
十勝の気象
11月〜4月、十勝では一年の半分が冬だ。
最低気温はマイナス30℃に達し、降った雪は春まで融けない。冬の寒さは長く厳しい。
しかし寒さばかりではない。非常に高い冬の日照率も十勝の冬の大きな特徴だ。「十勝晴れ」に銀世界がキラキラと輝く。雄大な風景とこの青空のおかげで、十勝の冬はとても明るい。
冬がようやく終わると春が一気にバクハツする。梅も桜も一斉に咲き乱れ、生き物も人も心がおどる。春から秋は、いとなみがぎゅっと凝縮された濃密な時間でもある。
気がつけばまた、長くて寒くて明るい冬がやってくる。
簡単なダクト(木製でよい)に、いくつかのファンと手動ダンパーを用いて空気の循環システムを作る。
冬:上部の暖かい空気を床下空気層に送り、床全体を暖める。また、北側の床等の低いところのスリットから暖かい空気を室内に送り、北面の寒さを防ぐ。
夏:上部の熱い空気を砂利蓄熱層に導き、給湯管を暖めて風呂・洗面に使う。風呂の床は床暖房となる。
十勝の冬は農閑期だ。この期間を有効に利用する。多種多様な人々がつくりあげる住まい。農業に使う機械、道具類はそのまま建築に使える。(ユンボ、ユニック、チェーンソー、丸鋸、etc)
作業場には納屋、ビニールハウスなどがあり余っている。まわりをビニールシートで囲み、多少の暖をとる。女たちの炊き出し、これは北海道の人々の得意とする伝統文化だ。
建築を通じて他者への理解、他者との違いを認識してゆく。
ここから建築が始まる。
I
農家の跡継ぎ問題はかなり深刻だ。
もちろん十勝の農業は官制農業、機械農業の弊害による構造的問題を抱えている。だが、跡継ぎがいないことには話しにならない。
ヨメさん(ムコさん)が来る家とはどんな家か。日本の伝統・文化を受け継ぎ、弱者が自立して住まうことができ、地球環境に考慮し、生命・財産を守り、病気をつくらず、気候風土を活かした住まいであることが原則であろう。
だが、何よりも家が楽しく光り輝いていたいのだ。ヨメ(ムコ)さん候補がやってきて、理屈抜きに「キャッ ステキッ、アタシ ココでくらしたい」、と感動してほしいのだ。
朝 ヨハンシュトラウスのワルツを空いっぱいにひびかせ、香りたつ一杯のコーヒー。子供は長い廊下や木々の間を走りまわっている。「早く支度をしなさい、スクールバスがくるわよー」。赤子はちっぽけなハンモックにゆられ、ばあちゃんは種の選別。「さあ今日も働くぞ」。
昼 長靴のまま内庭に入る。木陰のテーブルにはイモの煮っころがし、ピチピチのサンマの塩焼き。
夕方 真っ赤な夕焼け。ヨメさんの手もどろだらけ。今夜は近所(といっても1km〜2km離れているが、)の仲間たちとジンギスカン(バーベキュー)。羊の肉、 サンマ、ホタテ、自分たちでつくった野菜。先ずはビール「くぅー、うめぇー」。途中から老人たち(若者たちより元気)も加わって、大カラオケ大会。ど演 歌、「・・・・・・津軽海キョ・・・ウ・・・・フ・・ユゲェシキ・・・・・・・」飲みすぎ。
夜 客が帰る。静かにジャズを聞こう。外灯・室内のあかりを消すと真の闇。ガラス越しに満天の星空。「・・・・・・・・し・・・あ・・・わ・・・せ・・・・・・」「さあ明日も働くぞう。」
1.日本の伝統・文化を受け継ぎ、人格形成の場となる住まい
○十勝には町内会、老人会、青年部、婦人部とまだまだ他者とふれあう制度が色濃く残っている。又、同一敷地内に老人、若夫婦、子供と3世代が同居している。
○極寒と貧困は、日本の他の地域以上に、他者に目を向けること、他者を思いやる心を育てた。
○内庭を中心にじじ、ばば、親、子供が同じ空間を共有し、日常的に見、聞き、考える住まい。
○外庭、内庭は近隣との交流の場である。
2.高齢者や障害者が自立して暮らせる住まい
○内庭での簡単な労働を通じて、知恵を子孫に伝える。(自家菜園・種の選別・苗づくり・家具づくり・工具修理)
○1階は床板でバリアフリー。
○大きなお風呂、大きな便所は日常を豊かに暮らすだけでなく、車イスを必要とした時のため。和室・テラスには車イス専用車が直付けできる。
3.地球環境を大切にした住まい
○十勝型の自然空調システムを導入した省エネルギーの住まい。
○古い納屋、古材の活用。古い家の屋根裏に入ると、つぎはぎの梁、柱、小間隔に並んだ垂木代わりの薄板等、材料が貴重だった頃のことを知ることができる。残った木材、解体した古材は納屋に保存されている。昔からつづいている材を大切にする精神を大切にする。
○広い敷地を使ってゴミの処理がしやすい。小型焼却炉、木っ端は薪ストーブ、パン焼き釜の燃料として。
○土の炭焼き釜。十勝には炭に適した雑木が多く、近くの山を整備しながら雑木をはらう。炭は大好きなバーベキューの燃料となる。
4.生命を守る住まい
○動植物と共にくらし、互いの生命を守る感覚をやしなう。十勝ではかつては馬を農耕に使い、牛、羊、にわとり、犬等の動物、作物である植物(主に小麦、ビート、小豆)の成長と共に暮らしている。
○内庭が外と内との間の緩衝地帯になり、防犯上有効である。
○雪に対しては、ガラス屋根部分では、5寸勾配とする。勾配を急にし南面させることで、自然に下に落下させる。その他の屋根(ガルバリウム鋼板)は無落雪屋根とし、雪おろしを不要とする。
5.病気をつくらない住まい
○風通しよく、空気が循環し、光いっぱいの住まい
○素材:十勝の木・土を使う(土壁、土間のタタキ、ナラ、カシワ、カエデ、カラマツ等)。カラマツ、エゾマツは板材、集成材として梁に。北海道は樹種が豊富である。杉、桧を主要とする木造建築とは一味違った多様な木の差違を楽しみたい。
柱 :ナラ・カエデ・カシワ・ハルニレ
梁 :カラマツ・エゾマツの集成材
造作 :ナラ・オンコ・クルミ
土 :十勝の土で焼いた煉瓦・土壁・タタキ
地面(内庭):本来の土の香り、土の感触
○内庭には温帯、亜熱帯の花々が咲き乱れ、光はサンサン。土の香りに満ちあふれている。自然の中の健康空間。
6.財産を守る住まい
○構造材にはナラ・カシワ・ハルニレ等、強度のあるものを使う。
○内庭を中心に手軽に増改築ができる。
7.気候風土を活かした住まい
○長い冬を楽しく暮らす。
○十勝では住宅の大半が2x4工法だ。木造といっても木の香りはない。日本の伝統的な木組はほとんどないが、多様な木材を生き生きと使いたい。内庭では力強く、木材が空中に飛ぶ。
○広大な風景の中で、氷の結晶のようにキラッと輝く外観。
○外庭ー内庭ー建物と連続し、環境の上でも、人間にとっても、風景になじんだ抵抗のない空間構成。
○太陽の恵みを充分に活用。